オフラインチャネルの顧客行動も見える時代:データ利活用で“新しい勝ち筋”を見出す

データ活用
対談連載

月刊『宣伝会議』2022年7月号に掲載された記事です。


オフラインチャネルにおける顧客行動は数年前まで可視化しづらいものだったが、決済プラットフォームの浸透により、企業がマーケティングに活用できるデータの粒度は格段に高まった。

データを用いてどのようにオフラインを含めた広告投資全体の最適化を図ればよいのか。

広告主の立場でもあり、企業に対してマーケティング支援サービスも提供するPayPayの藤井博文氏とプロモーション設計から実行まで各フェーズでデータ活用による最適化を支援するサイカの古川琢也氏が議論した。

事業フェーズは次の段階へ費用対効果はよりシビアに

―PayPayの直近の広告活動の方針、戦略についてお聞かせください。

藤井: PayPayはサービス開始から3年半が経ち、ユーザー数は4700万人を超え、使える加盟店も広がり、決済のプラットフォームとしてある程度の規模になってきました。会社の事業収益的にも拡大期を経て、今から投資回収に向かうという転換期でもありますので、マーケティングでは費用対効果の部分をより厳密に見ながら、施策効果が測れるような戦略にシフトしてきています。

既存顧客に対しては、当然オウンドのチャネルでのアプローチが有効ですし、加盟店と連携することで、店舗などのオフラインでもコミュニケーションが可能です。その反面、新規顧客開拓に関しては、セグメントを意識したアプローチが必要になっています。現ユーザー数の4700万という数字は日本のスマホユーザーの約半数を占めます。残りの方々へアプローチするためには、今までと同じようなやり方では通用しないということです。

あるグローバルの決済プラットフォーマーの方に話を聞いたのですが、ユーザーを倍に増やす際は、セグメントを細かく区切り、それぞれのアプローチを地道に積み上げて達成したとのことでした。我々もここからは地道な活動になると考えています。

セグメントを細分化し、個別のアプローチを考えれば考えるほど、リソースはどんどん増える。その自動化や効率化を図る手段は模索中です。

古川: 当社のクライアントでも、国内シェアトップを誇る企業で、最初の垂直立ち上げ期と異なる新規顧客獲得の課題を持たれている方のお話を聞くことがあります。

そこで私たちがよく提案するのが、様々なマーケティング施策のデータを分析することで、今まで見えなかったデータ同士の繋がりや、そこから見えてくる新たな発見を導き出すことです。データは広告の投資効果を把握するだけでなく、マーケティングの新たな仮説をつくり出す重要なカギになると考えています。

藤井: 当社のデータ利活用は、試行錯誤しながら、少しずつ工夫を加えている段階です。ただ、もっとMMMによる分析なども導入して、マーケティング施策やプロモーションの寄与度なども可視化したいのですが、ビジネス環境の変化が激しいなか、分析に必要な変量がどんどん増え、分析がなかなか追いつきづらいという課題も抱えています。

特に私たちが今、最も課題としていることが、テレビCMの効果測定です。ここはわりと原始的なアプローチでCMを流す地域と流さない地域をつくり、どれぐらい効果差分が出るのかを分析しています。現状では、一番わかりやすく効果が出る手法だと考えています。

クリエイティブに必要な明確な根拠と勝ちパターン

―プランニングだけでなく、クリエイティブも重要な要素ですが、その開発や改善にはどのようにデータを活用しているのでしょうか。

藤井: 広告会社の方と事後調査をし、クリエイティブを要素分解しながら、何がどう生活者に伝わったのかを地道に可視化しています。先ほどの地域ごとの差分のように、似たフレームワークでクリエイティブを少し変えたCMを放映することで、その効果の差分を分析していくという形をとっています。

古川: クリエイティブの差分から効果を把握する方法は、社内コンセンサスを取る上でもわかりやすいため多くの企業で実践されていますね。当社ではより戦略的にクリエイティブ制作を行うため、認知拡大につながる要素や好意度を高める要素など、クリエイティブと要素の因果関係を分析する取り組みを進めています。

脳波センサーをつけて動画視聴時の反応を測定し、同時にアンケート調査を実施します。それらのデータを掛け合わせて分析することで、目標とする成果を確実性高く生み出すクリエイティブの要素を特定し、制作することが可能になります。

藤井: 確かに我々もいま、勝ちパターンがひとつできていて、それを微調整しながら、活用することで成果を出しています。ただ、当社が決済のプラットフォームではなく、フィンテックの総合プレイヤーとして、次のフェーズを目指す際には、新しいクリエイティブ軸を考えていかなければいけないと考えています。

新しいデータビジネスでオフラインの購買も可視化

―PayPayは広告主としてマーケティング施策を実施する主体者であると同時に、企業のマーケティング活動に寄与するデータを提供するプレイヤーとしての顔も持ちます。

藤井: 3rd Party Cookieの規制が厳しくなるなかで、1st Partyデータの重要性はどんどん増しています。オンラインでビジネスをされている企業においては、自社でデータを管理されている状態だと思いますが、オフラインで商品を売られているメーカーでは、まだその整備はなかなか難しい状態だと思います。

こうした課題解決に貢献すべく、加盟店やグループであるYahooやLINEと一緒に、新しいスキームづくりを進めています。まだ具体的なソリューションにはなっていませんが、例えば我々がハブとなり、複数の加盟店をつなぐことができれば、オフラインでは把握が難しい商品の購入回数や頻度を可視化することができます。そうすれば、オフラインであってもロイヤルユーザーに対して、新しい価値を提供することもできるようになるので、そういった世界を実現させていきたいと思います。

―古川さんからも今後の展望をお聞かせください。

古川: 当社は、データ分析をする会社としてもう10年です。様々な企業のデータ分析によってナレッジやノウハウが貯まっていますので、事業フェーズや目的ごとに、最適な施策、戦略が提供できると考えています。

おそらく今、広告主の皆様は、データドリブンなマーケティングの実現を目指されていると思います。最初に藤井さんがおっしゃっていましたが、セグメントを細分化し、1to1コミュニケーションに近づけば近づくほど、リソースが必要になるというジレンマがあります。こういったところを、我々のようなパートナー企業がサポートしていく必要性を感じています。現在、当社でもアナリストやカスタマーサクセスといった人材を強化していますので、この体制を拡充していきたいと思います 。

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